契約書や行政文書などの法律文書を読んだり作成するには、法律独特の用語の使い方を知る必要があります。
ここでは最低限押さえておきたい法令用語を説明します。

目次

1善意・悪意
2又は・若しくは
3及び・並びに
4かつ
5あわせて
6等
7直ちに・速やかに・遅滞なく
8者・物・もの
9時・とき
10とき・場合
11その他・その他の
12から○日・から起算して○日
13以下・未満、以上・超える、以前・前、以後・後、以内・内
14前・次・同
15以下同じ
16することができる・することができない
17しなければならない・してはならない
18する
19ものとする
20推定する・みなす
21準用する
22適用する
23施行する
24原本・謄本・正本・抄本
25住所・居所
26署名・記名
27年・年度
28条・項・号
29法・法規・法律・法令
30本則・附則

1善意・悪意(ぜんい・あくい)

「善意」とは、ある事実を知らないことを意味します。
「悪意」とは、ある事実を知っていることを意味します。

日常で使用される善意は、善良な心他人のためを思うという意味で使用され、悪意は、他人に害を与えようとする心という意味で使われていますが、法文等を読むときには意味が違ってきますので注意が必要です。

2又は・若しくは(または・もしくは)

「又は」と「若しくは」は、ともに複数の語句を選択的に結び付ける場合に使われますが、使用する段階が異なります。(英語で言えばどちらも「or」と同じです。)

「若しくは」は、「又は」で結ばれた語句の中を細分化してさらに語句を選択的に結び付ける場合に使われます。

通常は「又は」が使用され、条文中に「若しくは」が使われているときは、必ず「又は」が使われています。

使用例
スライド1

条文に「又は」と「若しくは」が2つ以上続く場合は、こちらの記事にて説明します。

3及び・並びに(および・ならびに)

「及び」と「並びに」、ともに複数の語句を併合的に結び付ける場合に使われますが、使用する段階が異なります。(英語で言えばどちらも「and」と同じです。)

「並びに」は、「及び」で結び付けられた語句をさらに上位の段階で他の語句を併合的に結び付ける場合に使われます。

通常は「及び」が使用され、条文中に「並びに」が使われているときは、必ず「及び」が使われています。

使用例
スライド2

条文に「及び」と「並びに」が2つ以上続く場合は、こちらの記事にて説明します。

4かつ(且つ)

「かつ」は、「及び」・「並びに」よりもっと強く用語や文章を連結させたい、連結された用語や文章が互いに密接不可分でこれに一体としての意味を持たせたいという場合に使われます。

5あわせて(併せて)

「あわせて」は、法令上「とともに」とか「同時に」という意味で接続詞又は副詞として使われます。

6等(など・とう)

「等」は、その直前に掲げられた事項以外にまだほかのものが含まれていることを表わす場合に使われます。

日常用語で「等」に特に意味を込めて使わないことが多いですが、法令上は「等」に何らかの意味を込めて使われます。
そのため、「等」が何を指しているのかを考えることが必要です。

7直ちに・速やかに・遅滞なく(ただちに・すみやかに・ちたいなく)

いずれも時間的近接性を表す用語ですが、法令上は使い分けをしています。時間的に即時性が最も強いのが「直ちに」です。次に「速やかに」で一番遅いのが「遅滞なく」となります。
「直ちに」の場合は、一切の遅刻を許さないと解されています。しかし、即時というよりも、通常の場合に踏むべき一定の手続きを経ずに、という意味合いで使われることがあります。
「遅滞なく」の場合は、合理的な理由があれば、その限りでの遅刻は許されると解されています。
「直ちに」や「遅滞なく」は、これらに違反した場合、不当又は違法と判断されるのが通例です。
「速やかに」は、訓示的な意味で使われる場合が多いとされています。

8者・物・もの

日常では「者」、「物」、「もの」はいずれも「もの」と読まれますが、法令上はそれぞれ違った意味で使われます。そのため、これらを区別するため、「者」⇒「シャ」、「物」⇒「ブツ」と音読みすることがあります。

「者」は、一般に法律上の人格を有するものを表わす場合に使われます。そのため、自然人と法人は含まれますが、それ以外の人格のない社団・財団は原則として含まれません。

「物」は、一般に行為の客体である有体物、物件、物質を表す場合に使われます。

「もの」は、いくつかの使われ方があります。
①自然人や法人のほかに人格のない社団・財団を含んでいる場合や、人格のない社団・財団だけである場合に使われます。
②有体物のほかに有体物でないものを含んでいる場合や、有体物でないものだけであることを表す場合に使われます。
③関係代名詞的な用法(・・・で・・・もの)で使われます。

9時・とき

「時」と「とき」の区別は、「時」は時点や時刻を強調する場合に使われます。対して「とき」は仮定的条件を表す場合に使われるのが原則です。

10とき・場合

「とき」と「場合」の区別は、両者ともに仮定的条件を表す場合に使われています。その際、どちらを使うかについて明確な基準があるわけではありません。慣用やその文脈の中における語感によってどちらを使うかが決められています。
しかし、同じ条文中で、大きな仮定的条件と小さな仮定的条件とを規定するときは、大きな仮定的条件には「場合」を、小さな仮定的条件には「とき」を使うのが原則とされています。

11その他・その他の(そのた・そのたの)

「その他」と「その他の」は、日常用語では特に区別して使われません。
法令上「その他」は、一般にそれによって結び付けられる用語が並列関係にある場合に使われます。
「その他の」は、それによって結び付けられる用語が部分と全体の関係にある場合に使われます。

スライド3

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12から○日・から起算して○日

期間の計算に関しては、民法第138条~第148条に原則が定められています。この原則は公法上の期間計算にも適用されています。

「・・・から○日」と規定されているときは、初日不算入の原則を適用します。

初日不算入の原則とは、たとえば、期間を日、週、月又は年で定めた場合は、期間の初日は参入されず、翌日から起算します。ただし、その期間が午前0時から始まるときは、その日から起算します。
また、期間の末日が終了したときは、末日の午後12時が経過したときに期間が満了します。ただし、期間の末日が日曜・祝日等の休日であり、かつ、その日に取引をしない慣習がある場合は、その翌日に期間が満了します。

「・・・日から起算して○日」と規定している場合は、「その日」を起算日として期間を計算します。初日不算入の例外ですが、「その日」自体が特定の日の「翌日」である場合が多いです。

13以下・未満、以上・超える、以前・前、以後・後、以内・内

「以上」、「以下」等「以」のついた用語は基準となる数量・時点等を含みます。対して、「未満」、「超える」等「以」のつかない用語はそれらを含みません。

14前・次・同(ぜん・じ・どう)

「前」、「次」、「同」は、ある条文で他の条項を引用する場合に関するルールです。
「前」は、直前の条・項・号などを引用する場合に使われます。
「次」は、直後の条・項・号などを引用する場合に使われます。
「同」は、同じ規定中で直前に表示された条・項・号・法令・年・月・日などを再度引用する場合に使われます。

15以下同じ

「以下同じ」は、条文中で用語の定義をした場合等において、表現の繰り返しを避け条文を簡潔にするために使われます。

16することができる・することができない

「することができる」は、法律上の権利・能力・権限などがあることを表す場合に使われます。
「することができない」は、法律上の権利・能力・権限がないことを表す場合に使われます。

17しなければならない・してはならない

「しなければならない」は、ある行為を行う義務(作為義務)を定める場合に使われます。
「してはならない」、ある行為を禁止し、ある行為をしない義務(不作為義務)を定める場合に使われます。

18する

「・・・する。」など動詞の終止形は、法規範の内容を創設的に宣言する場合に使われます。そのような行為が法令上当然に行われるという意味になります。

19ものとする

「・・・ものとする。」は①物事の原則や建前を表す。②一定の行為を義務付ける。③解釈上の誤解を避ける等の意味があります。

20推定する・みなす(すいていする・みなす)

「推定する」は、事実はこうだと一応決めておく場合に使われます。それが本当の事実と異なる場合には、証拠(反証)をあげてこれを否定することができます。

「みなす」は、本来性質の違うものを一定の法律関係において同様に取り扱う場合に使われます。

「推定する」と「みなす」の違いは、反証をあげて覆すことができるかどうかです。
しかし、「みなす」とされた場合にも、その効果を覆す手続きが法定されている場合もあります。

21準用する(じゅんようする)

「準用する」は、ある事実に関する規定を、それと類似する他の事項について、必要に応じて変更を加えた上で働かせる場合に使われます。これに対し、本来その規定が対象としている事項についてあてはめて働かせる場合には、「適用する」が使われます。

22適用する(てきようする)

「適用する」は、個別的・具体的に特定の人、特定の地域、特定の事項等について現実に発動・作用される場合に使われます。つまり、規定をあてはめて働かせるという意味です。

23施行する(しこうする・せこうする)

「施行する」は、法令の施行期日を定める際に使われます。法令は、公布されただけではまだ効力を生じておらず、施行されてはじめて現実に働きます。

「施行」の読み方ですが、「しこう」と「せこう」の読み方があります。どちらで読んでも間違えではありませんが、「しこう」読みが正しいとするのが一般的です。しかし「刑の執行(しっこう)」の響き区別をつけるため、あえて「せこう」と読む場合もあります。

24原本・謄本・正本・抄本(げんぽん・とうほん・せいほん・しょうほん)

「原本」とは、文書の作成者が一定の事項・内容を表示するため、確定的なものとして最初に作成した文書をいいます。

「謄本」とは、「原本」と同一の文字・符号を使って、「原本」の内容を完全に写し取った書面をいいます。「原本」の存在とその記載内容の全部を証明するために作成されます。

「正本」とは、法令の規定によって、作成権限のある者が、「原本」に基づいて特に「正本」として作成した文書をいいます。「正本」は謄本の一種ですが、外部に対しては「原本」と同一の効力をもって通用します。「原本」は一定の場所に保存されるため、その効力を他の場所で発揮させる場合に作成されます。

「抄本」とは、「原本」の一部について、その証明のために、「原本」の同一の文字・符号を使ってこれを写し取った書面をいいます。「抄本」は、「原本」のうち必要な部分の証明のために使われます。

25住所・居所(じゅうしょ・きょしょ)

「住所」とは、各人の生活の本拠をいいます。
「生活の本拠」とは、人の生活関係の中心である場所を意味します。

「居所(きょしょ)」とは、人が多少継続的に居住するが、その生活との関係の度合いが「住所」ほど密接ではない場所をいいます。たとえば、出張で社員寮に一定期間居住するような場合です。
「居所」は、一般に「住所」の補充としての機能を有します。

26署名・記名(しょめい・きめい)

「署名」とは、自己が作成した書類等にその責任を明らかにするために、自己の氏名を書くことをいいます。

「記名」は、書類等に作成者の責任をメイクにする等のために、氏名を記すことをいいます。「記名」の場合は、署名を必要とせず、他人が書いても差し支えなく、また、ゴム印やパソコン等による印刷でもかまいません。
法令上、「記名」は、「押印」とともに要求されるのが通例です。

27年・年度(ねん・ねんど)

「年」は1月1日から12月31までの期間を意味します。

「年度」は、「年」とは異なり、一定の期日から一定の期日までの期間を意味します。これは、それぞれの制度の目的に照らして法令が特に設定した期間です。年度の代表例として、会計年度や事業年度があります。

28条・項・号(じょう・こう・ごう)

条文の構造を民法の第111条を例に説明します。

「(代理権の消滅事由)
第百十一条  代理権は、次に掲げる事由によって消滅する。
一  本人の死亡
二  代理人の死亡又は代理人が破産手続開始の決定若しくは後見開始の審判を受けたこと。
2  委任による代理権は、前項各号に掲げる事由のほか、委任の終了によって消滅する。」

②条
上記のカギカッコ内を条と呼びます。「第百十一条」の部分が「条名」と呼ばれます。ネットで公開されている民法等では、漢数字で記載されていますが、漢数字でも通常の数字でもどちらでも間違いではありません。書籍等で見やすさや紙面の関係からか、「民法111条」と「第」を抜いて記載されているのを見ますが、「民法第111条」又は「民法第百十一条」等と記載するほうが正確です。

②条文の見出し
「(代理権の消滅事由)」の部分を、「見出し」といいます。見出しは、条文の内容を簡潔に表現して、カッコ書にして付けれれています。条文の規定している内容の理解と検索のしさすさのためにつけられています。学校教育法等の古い法律では見出しがつけられていない法律もありますが、市販されている六法ではカギカッコが見出しにつけられていることもあります。

③項
項とは、一つの条を規定の内容に従って更に区分する必要がある場合に、行を改めて書き始められた段落のことです。
上記は第1項と第2項があります。第1項の部分は「第百十一条」の後の部分になります。第1項に関しては数字を記載しないことが通常です。「2」の部分が第2項となります。そのため、第2項を記載する場合には、「民法第111条第2項」と記載します。条の「第」と項の「第」を記載するほうが正確です。

④号
条または項のなかにおいて、いくつかの事項を列記する必要のある場合には、漢数字を用いた番号を付けて列記します。これを号とよびます。
記載例は、「民法第111条第1項第1号」や「民法第111条第1項第2号」となります。
号の中で更に細かくいくつかの列記事項を設ける必要がある場合には、「イ、口、ハ…」を用いることになっています。これを更に細分して列記するときには、過去の立法例では「(一)、(二)、(三) …」を用いたこともありますが、現在では、「(1)、(2)、(3)…」を用いることになっています。政令になると、これを更に細分して、「(i)、(ii)、(iii)…」を用いて列記した例もあります。

29法・法規・法律・法令(ほう・ほうき・ほうりつ・ほうれい)

①法とは、政治的に組織された社会で、その構成員によって一般的に承認された規範をさします。社会規範の一種と考えられますが、道徳などとの違いについては、さまざまな見解が主張されています。一般に、法は外面性を持ち、国家権力によって強制的に実現することが認められているとされています。これに対して、道徳は内面性を持つといわれています。これは、法が一般的には人の外部的行為の規制を主な目的としているといいう、本質的な要素を持っていることを説明したものと考えられています。

②法規とは、一般国民の権利を制限し、または義務を課すような内容を持った法規範をいいます。行政機関の内部ルールとしての法のような、直接的には一般国民の権利義務に関係しない法規範と明確に区別する意味で用いられます。日本では、国会が唯一の立法機関であると規定されていますが、(憲法第41条)これは単に法律という名称を持った規範を定立することをさすのではなく、一般に法規という特定の内容を持った規範をさすと考えられています。つまり、一般国民の権利義務を拘束する規範を制定する権限は、原則として国会が持っているということになります。

③法律とは、日本国憲法が定める方式に従って国会で制定される法の形式をいいます。日本では、制定法は一般に、憲法、法律、命令、条例、規則等に分類されます。そして、制定法の効力は段階的構造を採っているといわれており、法律の効力は、憲法や条約に劣り、他方、政令や条例などに優先すると考えられています。

④法令とは、国会が定立する規範である法律および行政機関が定立する規範である命令の総称のことです。

30本則・附則(ほんそく・ふそく)

法律の構造と規定は大きく本則と附則に分かれます。
本則とは、規律の中味・実質を規定した部分です。本則の中には、総則、定義規定や雑則も含まれます。雑則の規定は、こまごました事項であっても規律の中味・実質そのものであるため、本則に含まれます。ちなみに、総則の章には、目的・趣旨規定や定義規定が置かれることが多いです。
附則とは、法律の施行期日、経過規定等、形式的な付随事項が置かれます。本則の後の、法律末尾に置かれることが多いです。